花屋敷の主人は蛍に恋をする
樹との関係も、そして菊那の刺繍の売れゆきも順調で、晴れやかな気分で日々を過ごしていた。
カフェの仕事では、仕事仲間に「最近楽しそうだね。彼氏でもできた?」と、見事に見破られてしまいあたふたしてしまったほどだった。
その日は「今日は半休つかっていいよ」と、午後から急な休みになった。ほとんど休みを使っていないため、店長が休みをくれたのだ。
帰って作業をしたい気もしたが、カフェのサンドイッチやパン、コーヒーなどを差し入れに貰ったので、菊那の足は自然と自宅とは逆の方へと向いていた。
見慣れた風景を歩く。
すると、遠くから大きな透明な屋根がある屋敷が見え始めた。
もちろん、菊那が向かっているのは樹の屋敷だった。仕事でいないかもしれないので、連絡はせずに向かう事にした。居なければ、残念だが帰ればいい。仕事の邪魔はしたくなかった。
もう少しで彼の屋敷へと続く袋小路に続く道へ到着するという所で、何かを大きな声が聞こえた。男性の声だ。
菊那は、その声の方へゆっくりと向かうとそこは樹の花屋敷がある方だった。
「だから、史陀………そろそろ止めて、話を聞いてくれ」
「………うるさいですね。私は何度もその話はお断りすると言っているでしょう?その事ばかり話すのなら、帰っていただけませんか?」
「いい加減、目を覚ませっ!お前は何のためにこの庭を作ってるんだ?」
「帰ってください………。花を金としか見ていない男に来てほしい場所ではないんですっ!」