花屋敷の主人は蛍に恋をする
「いらっしゃいませ」
「っっ!」
考え事をしていると、来店客が来たようで店長の挨拶をする声が聞こえた。
菊那も遅くなったが挨拶をして、作業に戻る。すると、隣に居た店長がこちらに近寄ってきて、小声で話し始めた。
「春夏冬さん、すっごい美形が来たよ!」
「そうなんですか?」
「………春夏冬さんって、こういうのあんまり興味ないもんね。ほら、注文みたいだからオーダー取ってきてっ!見てきて!」
「わかりました」
菊那は小声でもテンションが上がっている店長に苦笑しながら、ホールへと向かった。中央にスーツを着た男性が座っていた。すらりと伸びた脚と細身の体、そして艶のある髪。後ろ姿だけでも雰囲気が周りと違う。
だが、菊那はその美形だという男性の後ろ姿を見た瞬間「あっ!」と、大きめの声が出てしまった。
周りの客も菊那の方を向き、そしてその客もその声でこちらを振り向いた。
「あぁ………菊那。居てよかった」
「樹さんっ」
そこに座っていたのは、愛しい恋人の樹だった。
ただでさえ彼は注目される容姿なのに、店員である菊那に話をかけた事により、更に目立ってしまっていた。他のお客さんはともかく、他のスタッフからの視線が痛かった。