花屋敷の主人は蛍に恋をする
「どうしてここに……?」
「あなたが働いている所を見てみたくて。それに、会いたくなったので時間が空いたので来てしまいました」
「あ、ありがとう。………嬉しい……」
彼から会いたかったと言われると恋人として菊那も嬉しくなってしまう。頬がニヤけてしまうのを我慢出来なくなり、伝票板で口元を隠す。
「仕事の邪魔はしたくなかったので、テイクアウトして帰ります。…………今日は何時までですか?」
「17時………だけど」
「じゃあ、その頃にまた来ます」
「え……」
「私が話したいのです。食事に行きましょう」
「………うん。樹さん、ありがとうございます」
樹は笑顔で頷くと、温かいコーヒーが入った紙袋を持って、すぐに店から出ていった。
連絡なしで来てくれるなんて、急用でもあったのだろうか?そんな事を考える暇もなく、店のスタッフに質問攻めにあってしまったのだった。
仕事が終わり、スマホを見ると樹から連絡が来ていた。カフェの近くの本屋で待っていてくれるとメッセージが入っていた。
結局スタッフには恋人だと伝えてしまい、いろいろと質問されてしまった。出会いなどは誤魔化したけれど、話していくうちに、本当に偶然の出会いだなと思った。
確かに菊那は花屋敷の主人に会いに行ったけれど、そこで樹が屋敷から出てこなければ、偶然に紋芽とぶつからなければ彼との縁はなかったのだ。
人の出会いとは本当に不思議だなと菊那は思った。
彼が待っているとバレているため、定時より少し早い時間に上がらせて貰えたので、菊那は急いで支度をして樹の待つ本屋へと向かった。