花屋敷の主人は蛍に恋をする
合流した2人は、近くの洋食のレストランに入り、食事をする事になった。
恋人が目の前に居て、美味しいものを一緒に食べられる。
そんな時間が嬉しくて、菊那の表情も和らいでくる。そして、言葉数も多くなっていく。
「樹が来たとき驚いたけど……嬉しかったよ。会いに来てくれたのが、嬉しかった
……」
「それは会いに行ったかいがありましたね。あそこの制服は可愛いですね。とてもよくお似合いでした」
「あ、それ店長喜ぶと思う!すごくこだわったみたいだから。私もお気に入りなんだー」
そう言いながら、食後の柚子味のシャーベットを口に入れる。樹が勧めてくれたデザートは優しくて爽やかな味がして、更に口元が弛んでしまう。
「………よかったです」
「え?何が、ですか?」
「菊那が最近元気がないと思って心配していました。この間会った時も上の空になっている事が多々ありましたし、今日も私がカフェに行ってもしばらく気づかないぐらいに考え事をしていましたね。………それがどうしても気になったので」
「………そうだったんだ。私の事を心配してくれて………」
樹は菊那を心配して様子を見に来てくれたのだろう。そして気分転換になるようにと、こうやって外食に連れていってくれたのだ。
そんな彼の心遣いはとても嬉しい。
けれど、その理由は目の前の彼の事なのだ。
この町の有名な噂話の主人公である花屋敷の主人。
そして、秘密があるという彼。
自分に何を話していないのか、それが菊那の1番の悩み事なのだから。
「私に話を聞かせてはくれませんか?……力になれないかもしれませんが、それでも私に頼って欲しいのです」
恋人なのだから、相談してほしい。
話してほしい。
その気持ちは彼も同じなのだ。
菊那は、樹の話を聞いて彼に自分から問い掛ける事に決めたのだ。
きっと、彼が同じである事を信じて。