花屋敷の主人は蛍に恋をする
「………これでさようならって事にならないよね………」
最悪の結末を思い浮かべては、ため息と、焦りばかり出てくる。
樹はいつか教えてくれると言ったのだから待てばいい話なのはわかっている。けれど、どこか気になるのだ。
その時の、樹の悲しげな表情が。そして、言葉が。
彼は何か言いたいことがあったのではないか。菊那はそんな気がしていた。
「私が悲しむって…………もう、十分悲しんでるのにな…………」
そんな風にため息をもらして目を瞑る。それでも頭の中に浮かぶのは樹の事だった。会いたい。けれど、会うのも怖い。そんな事をずるずると考えてしまう。
すると、静かな室内に「ぐーーー」という、間抜けな音が響いた。
それが自分の空腹の証しなのだとわかり、菊那は苦笑してしまう。
ゆっくりとベットから起き上がると、菊那の視界にテーブルに飾ってある1輪の花が入った。
「まだ枯れてない………屋敷の花だから?それにしても……屋敷から離れて1週間ぐらいたってるのに、どこも痛んでないのかな」
菊那はノロノロとテーブルに近づき、クレオメの花を見つめた。どこからどうみても本物の花だ。
「不思議だな………本当に屋敷の花の力なのかな。花の色もとても鮮やかだし、茎や葉も凛としてる。それに花の香りだって……………香り…………」