花屋敷の主人は蛍に恋をする



 そこまで言葉を紡いでから、菊那はハッとした。
 この花の香りはどんなものなのだろうか。1週間経ったのに、全く感じたことがないのだ。菊那はクレオメの花の部分に鼻を近づける。だが、全く香りがしないのだ。そして、葉っぱの部分も嗅いでみるが青々とした草の香りも感じない。


 「そう言えば………樹さんの庭ってどんな香りがしていた?」


 菊那は庭で過ごした日々を思い出してみても、ラベンダーの香りも桜や金木犀、木蓮……花の香りがしないのだ。花だけではない草原のような草の香りも、自然の香りがした記憶がなかった。
 思い出せるのは彼と共に飲んだ紅茶の甘い香りだけなのだ。



 「…………もしかして………これって」



 菊那はその紫色の花を見つめた後、ゆっくりと手に取った。
 尾崎が言っていた、「この花がヒント」というのは、この花自体に秘密が隠されているという事なのだろう。

 菊那はそれがわかり、ゆっくりと大きく口を開けた。
 そして、花にかぶりついた。










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