花屋敷の主人は蛍に恋をする
★★★
樹は一人庭のソファに座っていた。
テーブルには乱雑に脱いだスーツのジャネットとネクタイが置いてある。
ボタンをほぼ外した白いシャツを着て、だらしなく座り込む。そして、月の光を受けて輝く花達を眺めていた。
「自分が何をやりたいのか……そんな事は私にもわかりませんよ」
樹は、この間来た尾崎の事を思い出して、ため息と共に愚痴を溢した。
普段の一人では飲まないアルコールを摂取したからだろうか。そんな、悪態を吐いてしまう。酒のせいしてしまえば楽だからだろう。
「菊那は………私をどう思ったでしょうか?………黄色の花をやっと見つけられたはずでしたが………」
庭の端に咲く、さまざなな種類の菊の花。その花はソファに座るとよく見える場所に植えられている。樹が選んで決めたお気に入りの場所。
だが、今だけはあまり見たくないと思う。彼女を思い出してしまうから。
「やはり花ではない私ではダメなのか………」
くしゃくしゃと前髪を書き上げて、天井を仰ぐ。
そこにはガラス越しで少し歪んだ月が光輝いていてる。
今夜だけはあの菊を照らさないで欲しい。
樹はそんな風に願いつつ、またグラスに入った赤いワインで喉を潤した。