花屋敷の主人は蛍に恋をする
27話「ブラックティー」
27話「ブラックティー」
☆☆☆
「…………菊那。いらっしゃい。驚きました」
いつも落ち着いた様子の樹だが、その日はどことなく違っていた。セットされている髪ではなく、少し乱雑のままだったし、服もシャツに緩いズボンという格好だった。起きてからボーッとしていた、という感じで新鮮だった。
彼と一緒に寝てもいつも先に起きるのは樹の方だったし、服装も隙がなく完璧だった。
けれど、突然の来訪だったので、まさか菊那が来ると思っていなかったのだろう。
樹はとても驚いた顔をした後に、恥ずかしそうにしながらも菊那を屋敷に招き入れてくれた。
「突然来てごめんなさい」
「いいんですよ。恋人なのですから。鍵をお渡ししていつでも来ていただきたいほどです」
「……………樹さんって、さらって嬉しいこと言っちゃいますよね」
「そうですか?本心ですよ」
先日の事があり、ぎくしゃくした会話になると思っていたが、いつも通り話が出来た事に菊那は安心した。こうやって、笑い合えるのは嬉しいことだと離れている間に実感した。
その日は梅雨空で、シトシトと雨が降っていた。だが、それも雰囲気があるのでおすすめだと樹は庭に案内してくれた。