花屋敷の主人は蛍に恋をする
「………すみません。はしたない格好をしてしまっていて。着替えてきてもいいですか?」
「そういう服装の樹さんを見れて私は嬉しかったから……そのままでいいよ?」
「ですが………」
「どんな樹さんでも、私は見たいし、かっこいいって思ってますよ?」
「ずるいですね………ですが、敬語を使ったのでペナルティーです」
「………ぁ………」
いつもは向かい側に座る樹だったけれど、今日はそう言った後に菊那の隣に座り、そしてゆっくりと菊那にキスをした。 雨が降っていて肌寒いからだろうか。彼の唇はとても冷たかった。
「………もう来ていただけないかと思いました」
「そんな事ない………」
「この間、あなたに話せないと言ったのに?」
「いつかは教えてくれるなら」
「…………あの……」
「今日はサプライズを用意したんですよ!」
樹が口を開いた瞬間に、菊那は自分の言葉で遮ってしまった。樹に「やはり話せない」と言われてしまうのが怖かったのだ。気づかないフリをして、菊那は自分の鞄から用意したものを取り出した。
「………花ですか?」
「花屋さんで、樹さんにぴったりの薔薇を見つけたんです。あ、でもこれが樹さんの薔薇ってわけじゃないよ」
「これは、ブラックティーですね」
「さすが!樹さんと言ったら紅茶なので!」
そう言うと、菊那は綺麗に包装されたブーケを彼に手渡した。
「いつも沢山プレゼントしてもらっているので。受け取ってください。そして、この間は変なことを言ってすみませんでした」
「…………ありがとうございます。花のプレゼントを貰ったのは初めてですので……嬉しいです。ありがとうございます」