花屋敷の主人は蛍に恋をする
はっきりと口にされてしまうと、言葉に詰まる。彼の視線はまっすぐ菊那を見ている。その視線はもちろん、真剣そのもので、菊那の作り笑顔などお見通しなのだとわかる。
樹はわかっていたのだ。
菊那の考えている事を。
「……………どうして、わかったの?」
「恋人ですからね。これでも菊那が好きだから、少しの違いもわかります」
「………悔しいはずなのに、嬉しいなんて変だな………」
菊那は苦笑しながら、自分の頭をくしゃくしゃに撫でた。
そして、ゆっくり頭を下げた。
「ごめんなさい………樹さんを試すような事をしてしまって」
「…………どうして、花枯病だと思ったんですか?」
「それは………樹さんは素手で花に触っていないなって気づいたからです。チョコレートコスモスの花束も手袋をしてましたし、日葵さんの種にも触ろうとしてなかったので。それに、樹さんが植物学の勉強しているのは自分の病気を治したいからなのかと………」
「なるほど」
「そ、それにこの屋敷の花の秘密………樹さんが花枯病だとしたらこの屋敷の花を触っても枯れてしまう。けど、枯れない花を作っているのだと。そも違うとわかりました。」
「………魔法ではない、と?」
「はい………」
菊那は考えに考えて、樹は花枯病ではないか。そんな答えに辿り着いたのだ。
原因不明の難病。花枯病。花に触れるとその花が枯れてしまうという、不思議な病気だ。
樹と過ごしてきた中で、もしかして彼もそうなのではないか。そんな風に思って、花束を買ってきた。もし勘違いだとしても花を喜んでもらえればいい………そんな考えだったが、彼には全て見透かされていたようだ。
自分の汚いやり方に、菊那は恥ずかしくなってしまう。正面から伝えればよかったのに。………それが怖くて出来なかったのだ。
それに、もう1つわかったことがあった。それが花屋敷の枯れない四季の花たちだ。
尾崎にヒントを貰い、ようやくわかったのだ。