花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「この庭の花たちは、造花ですね?かなり精巧に作られて本物のように見えますが、偽物だとわかったんです」
 「………それは何故ですか?」


 肯定も否定もせずに、いつもの変わらない笑みを浮かべ、菊那を見つめる樹。それが、正解なのか不正解なのかもわからないまま菊那は言葉を続けた。


 「この庭には花や草木の香りがしないなって思ったの。気づくのは遅すぎだけど……それに、草の味がしなかった」
 「え………味って………まさか」
 「噛ってみたんです」
 「…………くくっ」
 「樹さん?」
 「はははっ……菊那、噛ったって………ふふっ………君は本当に面白いことをしますね」 
 

 樹が堪えきれずに笑い出したのを見て、菊那はポカンとしてしまう。
 大事な話をしているのに、と思う反面こんなに顔を崩し真っ赤になるまで笑っている樹を見るのが初めてで、菊那はどうしていいのかわからなくなった。
 それと同時に、無邪気な笑顔を見せてくれるぐらいに自分は彼に気を許されているのだと実感出来て嬉しさが沸々と込み上げてきた。


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