花屋敷の主人は蛍に恋をする



 それから、樹と碧海はこの公園で時々会うようになった。樹の花や草の話を碧海はとても楽しそうに聞いた。樹が花に触れた、香りをかいで言葉にすると、碧海は「元気にいきてるのね」と微笑んでその花の名前を覚えようとジッと見つめるのが印象的だった。


 「花枯病の事、聞いてもいいですか?」
 「えぇ。なに?」
 「碧海さんは、生まれてすぐになったんですか?それとも突然ですか?」
 「…………生まれながらよ」
 「そう、ですか」
 「だから、花に触れたこと何てほとんどないの。昔は触れると花が枯れるのが早くなる程度だったみたいだけど、記憶がある頃にはもう花が目に見えて弱っていったわ。………今みたいに急激じゃないけどね。だから、あまり触らないようにしていたわ。お医者さんにもそう言われたし」
 「碧海さんは、それでも花が好きですか?」
 「………元々好きだったとは思う。けど、触れないからこその憧れもあるのかもしれないわ」


 そう言って、碧海は花壇の花に手を伸ばした。けれど、その細い指先は花に触れることもなく、ゆっくりと握られて碧海の胸にしまわれていく。


 「だから、早くお薬とか開発されて、その病気が亡くなればいいなっては思ってるよ。だから、期待してますよ、先生!」
 「………私の専門外ですよ」
 「そっかー。残念だ」


 碧海は言葉とは裏腹にとても楽しそうに笑った。
 その笑みを見て、樹は花枯病であっても花を楽しむ方法はあるのではないか、と思ってしまった。
 彼女の苦しみを少しもわかりもしなかったのに。



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