花屋敷の主人は蛍に恋をする
大学内の植物園に向かうと、一般開放日とあって、親子連れが多く見られた。いつもは静かな園内だが、今日は賑やかな雰囲気だった。
碧海はすぐにでも駆け出していきたい様子だったけれど、肌に触れてしまってはいけないと細心の注意をしているのか、少し離れた場所から見ていた。
「わー……綺麗だねー。なんか、生き生きと咲いてる気がする」
「………碧海さん、サングラスとらないんですか?」
「え、あー………取った方がよく見えるよね。でも、目の色が最近変わってきちゃって…………変じゃない?」
碧海はサングラスをずらして、碧海を見上げる。すると、彼女の黒い瞳が緑になっていたのだ。花枯病患者の特徴の1つだ。
「大丈夫ですよ。綺麗です」
「………そっか。じゃあ、しっかり見ておかなきゃね」
そう言って、碧海はサングラスをバックにしまった。
そして、先ほどよりも嬉しそうにしながら、植物園をまわったのだ。
樹が話すことはつい専門的なものになってしまいがちだが、それでも碧海はとても楽しそうに話を聞いてくれていた。
仕事以外で他人と過ごすことがほとんどなかった樹にとって、その時間はとても穏やかで暖かい時間だった。
誰かと一緒に居るのは面倒だけれど、でも笑える時間が増えるのだ。それを感じた瞬間でもあった。