花屋敷の主人は蛍に恋をする
「いや………見ないで………助けて……」
「碧海さん!こっちに…………」
樹が彼女に駆け寄り、体を支えようと近づいた。すると、先ほどの子どもが悲鳴をあげたのだ。
「キャーッッ!何これ………、お花が枯れてる」
「え、何……。こわ、何あの人……」
「花が枯れちゃうとか魔女………?」
「恐ろしい………もしかして、花枯病とか言う呪いの?」
「えー、何それ?」
子どもの家族や近くに居た人々が騒ぎによって集まってきてしまったのだ。
そして、碧海を見ては不気味なものを見る目、そして言葉を向けてきたのだ。
碧海は、恐怖と悲しみと絶望の顔で枯れていく花と、人々を見た後にノロノロと立ち上がった。
「碧海さん……手から血が出てます。私の研究室に………」
「いやっ!……さ、触らないで!」
樹の手をパンッと叩くと、碧海は涙を浮かべた顔で樹を見た後、その場から走り去った。集まっていた人達は、碧海が近づくと、サッと道を避ける。
樹は転んでしまった子どもに「ごめんなさい。大丈夫だった?」と声を掛けた後、すぐに碧海の元へと駆け出した。
顔や服に泥がついたままの碧海を、周りの人は怪訝そうに見ていたが、何も言わずに遠巻きに見ているだけだった。
樹が彼女に追い付いた時には、すでに植物園から外に出ていた。