花屋敷の主人は蛍に恋をする
30話「ルイの涙」
30話「ルイの涙」
★★★
あまり思い出したくない過去の話。
けれど、大切にして忘れたくない過去の記憶だ。
いつかは話さなければいけない事だと思っていたが、こうも早くに菊菜に伝えるとは思わなかった。
話が終わると、彼女は今にも泣きそうになっており、どことなく顔色も悪い。
「菊菜、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫………。話してくれて、ありがとう。…………碧海さんという女性と出会ってから、樹さんはあの屋敷を作ったんだね」
「えぇ、そうですね。彼女が触れても大丈夫なように本物そっくりの花を作りたいと思ったんです。たとえ、それが偽物だとしても」
「…………碧海さんはここに来てくれたの?」
「…………完成するまで会わないつもりでした。私は造花をつくる人ではなかったし、こだわりもあって完成は遅くなりました。もう少しで完成間近という時に、大学に届きものがありました。碧海さんのご家族からでした」
「………まさか………」
「彼女はあれから半年後に亡くなりました。そして、その時に残したものを両親が送ってくれてのです」
「………そうだったんですね」
「あなたも泣いてくれるんですね」
そう言って、菊菜の目元に溜まった涙を指先で拭う。すると、彼女は「ごめんなさい」と何故か謝った。