花屋敷の主人は蛍に恋をする
「よく知らない私が泣くなんて………すみません」
「そんな事はないです。………碧海は手紙で植物園の花の心配をしていました。自分が枯らした花は大丈夫だったのか。その後の花は咲いたのか、と。そして、自分のように花枯病で苦しむ人を助けて欲しい、と長い手紙をくれました」
「…………だから、屋敷の花を作っていたのね」
樹は頷き、屋敷の花を見つめた。
これは全て作り物の花。
どんなに頑張っても本物には叶わない。ただの造花だ。
けれど、樹は1つ1つの花を丁寧に作り上げた。大学時代の友人である尾崎がミニチュアや模型作りの人を紹介してくれ、彼の会社の力を借りて造花を作ってきた。ゆくゆくは、花枯病の人に向けて販売する予定だったのだ。
けれど、樹は迷っていたのだ。
それで、本当に喜んでもらえるのか、と。
「…………菊菜はこの花に触れて、どうでしたか?」
「本当の花だと思ってたから驚いたよ。四季の庭は本当に会ったんだって、嬉しかった」
彼女は目についた涙を手で拭きながら、笑みを浮かべて庭を見つめた。そのキラキラとした瞳が、本心だと証明してくれているのがわかる。
「菊菜も、花枯病ですね」
「……………」
樹がずっと言えなかった言葉を伝えると、菊菜の笑顔が固まった。
きっと知られたくなかった事なのだろう。そして、樹が知っていると気づいていなかったようだ。
「屋敷に来た理由はもう1つあったのですね。日葵さんの事の他にも。花枯病の事を相談したかったのではないですか?屋敷で料理をしないのは、素手で野菜など切れないから。植物園のデートを断って海にしたのも、なるべく植物に触れる場所に行きたくないからではないですか?」
「…………どうして、樹さんにはいつもバレてしまうんでしょうか?」
菊菜は泣きそうな顔を必死に我慢して、作り笑顔でそう言った。
その答えはただ1つしかない。
「大切な彼女であり、ずっと探していた人であり………そして、一目惚れした相手なのですから、当たり前です」