花屋敷の主人は蛍に恋をする
☆☆☆
「菊菜も、花枯病ですね」
その言葉はグサッと菊菜の体を切り裂かれるような、そんな衝撃を与えるものだった。
医者からしか言われたことのない言葉。家族以外には必死に隠してきた真実。それを愛しい人に知られてしまった。
菊菜は激しく動揺し、目が泳いでしまう。けれど、冷静にならなければ、と樹をじっと見つめた。
そして、彼がどうして菊菜が花枯病だとわかったかを説明すると、菊菜が必死に隠してきた事が全て彼にはバレていた事がわかった。
「…………どうして、樹さんにはいつもバレてしまうんでしょうか?」
「大切な彼女であり、ずっと探していた人であり………そして、一目惚れした相手なのですから、当たり前です」
そんな情けない言葉がつい洩れてしまう。嘘つきな自分のどうしようもない言葉。
それなのに、樹はどうしようもなく優しい。その優しさが辛くなるほどに。
「花枯病だと気づいたのはいつ?」
「会ってすぐです」
「え…………」
「花枯病の人の瞳は独特です。瞳に緑の光が混ざります。それが菊菜にはありました」
「…………あぁ……だから、尾崎さんは私に屋敷の花をくれたんだ」
「なるほど。尾崎から何か言われて、屋敷の花が造花だとわかったんですね。………あの人は全く………」
樹は大きくため息をついた後、菊菜の手を強く握りしめた。菊菜の体がビクッと震える。
自分は樹に隠し事ばかりしているのに、どうして彼はいつまでも優しいのだろうか。それが不思議で仕方がなかった。
けれど、わかってしまった。