花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「私が花枯病だから、近づいたの?碧海さんという人が、花枯病の人を、助けて欲しいって言ったから、私に屋敷に入れてくれて、そして優しくしてくれたの?」


 こんな事を言いたいわけじゃない。
 樹がそんな事をする人だとわかっている。
 だけれど、樹の気持ちを知りたかった。けど、知りたくない気持ちもあった。それなのに、口に出してしまう自分は愚かだと思う。だが、それを言葉にしないいけない、そう思ったのだ。
 情けないぐらいに涙をこぼしながら、彼を見上げて訴えるようにそう言うと、樹は悲しげな顔も見せずにいつも笑顔を見せた。菊菜が安心する表情。大好きな笑顔だ。


 「菊菜だからです。あなたは、私の庭に遊びに来てくれた蛍のようでした。緑がまざった綺麗な黄色の光で私を癒してくれた。そして、蛍のように儚げで、光りもおぼろげで………守りたいと思った。けれど、あなたは夢を持って頑張っていた。病気の事を隠しながら、遠くを見ていた。それが、かっこよくも美しいと思ったのです。…………碧海が願ったから花枯病の人を救いたいとも思ったのは本当ですが。ここまで、恋したのはあなたが初めてですよ」


 そう言うと、樹はいつもと同じように菊菜を優しく抱きしめてくれる。
 菊菜は、その言葉と彼の体温と、そして鼓動を感じギュッと目を瞑った。
 それと同時に大粒の涙がボロリと落ち、そして樹にしがみついて菊菜は泣いた。


 「………怖かった、助けて欲しかった………。自分の体が恐ろしくて、そして自分がどうなってしまうのか。他の人にバレてしまったら、蔑み、恐がられて、差別されると思った。自分の作品を買ってくれる花枯症の人を見て……こうなってしまうのかと怖がってしまう自分もイヤだった。…………ねぇ、私はどうなってしまうの?樹さんと離れたくない、夢を叶えたい………死にたくない…………っっ!…………ぅぅ………」



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