花屋敷の主人は蛍に恋をする




 最近の私は涙もろい。

 大人になってから泣くことなんてほとんどなかったし、泣いたとしても一人でこっそりと泣いていた。
 それなのに、樹と出会ってからというものの、彼の前で泣いてばかりだ。
 こんな泣き虫な恋人など、イヤかもしれない。


 けれど、今夜だけは許して欲しい。
 自分の怖さを人に打ち明け、醜さと死へと恐れが菊菜の体や心を蝕んでいた。

 人にそれを話したからと言って、何も変わるわけではないかもしれない。

 けれど、打ち明けてもなお笑顔で抱きしめ、「守りたい」と言ってくれる。そして、「大丈夫、大丈夫です」と背中を撫でながら菊菜を落ち着かせようとしながらも、涙が止まるまでずっと抱きしめてくれる樹。そんな彼が隣に居てくれる事が今は何よりも安心出来るのだから。

 だから、涙が枯れてしまうまで泣いてしまいたい。樹のシャツが菊菜の涙でぬれてしまっても、樹はかわずに優しく語りかたけてくれるのだ。


 「大丈夫。守ります」と言って。






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