花屋敷の主人は蛍に恋をする




 菊菜もネットで調べた情報や医師から聞いた時には「完治は難しいだろう」と、言われていた。
 だから、期待はしていなかったが、また「事例がない」と言われてしまうと、悲しくなってしまう。目に見えて落ち込んでしまうと、樹は困ったように菊菜を見つめた。


 「そんなに落ち込まないでください。菊菜が安心出来る話です」
 「え……?」
 「最近出た海外の論文で、先天性のもの、つまり生まれもって花枯病の方の死亡率はとても早いものだとわかりました。そして、菊菜のような突然病に罹ってしまった人は最近増えてきて、そして若くして亡くなること、花枯病が原因で亡くなることはないとわかりました」
 「………ぇ………亡くならないって………」
 「花枯病から何か他の病気にかかってしまった、という場合もあるかもしれませんが……ここ100年の研究結果では突然的に花枯病になり亡くなった方はいない、という事でした」


 ホッとして体の力が抜けるというのはこの事を言うのだろう。
 ヘナヘナと彼に寄りかかり、座っているのもやっとの状態で、樹を見上げた。


 「大丈夫ですか?」
 「………少し安心したら、力が抜けてしまって。私は助かるの?」
 「えぇ。花枯病に関してはあまり知られていない病気なだけに資料も少ない。そして、治療する知識がある医者も数少ないのです。そのために、間違った情報が入ってきてしまう事も多いのでしょうね」
 「そっか………よかった………けど………花枯病は同じなのに、何が違うんだろう。助かる人、増えてくれればいいのに」




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