花屋敷の主人は蛍に恋をする




 花を買うことさえ出来なかった。
 買ったとしても触れる事ができなく、少し寂しい気持ちで花を見てしまっていた。
 けれど、樹が作ってくれた枯れない花を堂々と買える。
 そして、部屋に飾っては眺めて、触れて、笑顔になれる。
 そんな事を想像するだけで笑顔になれる。

 だから、花枯病で花に触れられる喜びをみんなにも感じて貰いたい。
 菊菜がおそるおそる触れ、そして、緊張から解放され息を吐き、笑顔になれるその瞬間を体感して欲しい。そう強く思った。


 「菊菜にそう言って貰えて、自信がつきました。前向きに考えていきますね」
 「うん!楽しみにしてるね」


 迷っていた気持ちが固まったのか、樹は先ほどからの少し晴れない笑顔は、すぐにいつもの太陽のような笑みに変わった。
 彼も、菊菜と同じようにずっとずっと悩んでいたのだろう。
 枯れない花を作りながら。

 彼の努力と優しさの結晶である屋敷の庭を見つめる。
 花達はいつも以上にキラキラと光っているように感じ、菊菜は目を細めた。

 そして、花に向かって手を伸ばす。
 近くの花は何故かひだまりのように温かく感じたのだった。



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