花屋敷の主人は蛍に恋をする
樹は菊菜に手を伸ばしたかと思うと、そのまま菊菜を抱きしめ、後頭部に腕をまわしながら、ゆっくりとベットに押し倒した。
何度も近くで見てきた樹の顔が、いつもとは全く違うものに見えてしまい、菊菜は視線を背けようと顔をそらすが、それはあえなく阻止されてしまう。
樹がキスをしてきたのだ。
「………っ………」
深いキスを与えられ、菊菜の体温は一気に上昇する。長いキスは、菊菜の口の中をうごめき、そして菊菜の快感を呼び起こしていく。
やっとの事で彼のキスが終わり唇が離れた時には、菊菜の体は痺れたように動かなくなってしまっていた。
「樹さん………」
「あなたと長い夜を過ごすのは、とても幸せでしたが、我慢の夜でもありました。私も男なので、好きな女性が隣にいるのに我慢するというのはとても辛かったのです」
「………我慢なんてしなくてもよかったのに」
「お互いに秘密をもったまま、体を繋げてしまうのには抵抗がありました。秘密を知った上で、菊菜に好きだと言ってもらえたならば、その時は菊菜を貰いたいと思っていたのですよ」
そう言うと、形の良い唇が菊菜の頬に落とされる。甘い戯れのように、樹はほほえみながらそう言った。
彼はずるい。
もう樹は菊菜の返事などわかっているはずだ。だから、余裕の笑みでそう言っているのだろう。
悔しいけれど、それで正解なのだ。
ここで菊菜が「好きじゃない」など言えるはずがない。
菊菜は樹が大好きになっているのだから。