花屋敷の主人は蛍に恋をする



 そして、菊菜はある考えを口にした。
 いや、これは女の勘だが、絶対にそうだと確信していた。

 「………もしかして、それは樹さんが発表したんですか?」

 そう樹に伝えるの、彼はとても驚いた顔を見せた後、とても嬉しそうに笑った。

 「………そうです。私が発表したものです。まだまだ仮説ばかりで、研究者達からはかなりバカにされていますが。……私はこれが正解だと思っています」
 「…………ありがとうございます。樹さん………触れられる花が出来ただけでも嬉しいのに、こうやって花枯病の人たちを勇気づけてくれるなんて………私を守ってくれて、ありがとう」

 菊菜はそう言うと、彼に向かって手を伸ばした。彼の頬に触れて、菊菜は1度目を瞑り、そしてゆっくりと目を開けた。


 「じゃあ、あなたに触れても力をあげられるのね」
 「………え」
 「史陀はシダ植物、樹は木………。あなたに花はないけれど、植物だわ。だから、私から貴方に力をあげられるはず。……だから、他の花枯病の人をまた守ってあげよう?もし、あなたが疲れたら私が力をあげる………。2人で頑張りたいって思うの」



 樹の名前には花がない。
 けれど、しっかりと植物の名前がある。彼は花の名前に惹かれていたようだが、菊菜はその名前こそが彼に相応しいなと思った。

 樹の瞳が揺れ、何かが光ったと思った瞬間に菊菜は彼にポーチごと抱きしめられていた。


 「私の蛍はもう捕まえました。もう決して離しはしません」
 「うん。離さないでね………ずっと捕まえていて」


 菊菜はそう言うと彼の方を見上げ、つま先立ちをして、彼の頬にキスをしようとした。すると、彼はそれがわかったのか顔を落とし、軌道を変えて唇にキスを合わせた。

 クスクスと笑いながら、2人は外を眺める。そこからは庭のガラスの屋根が見えた。
 今日もまた庭でゆっくりと過ごそう。
 そう菊菜は思い、彼の胸の中で目を閉じた。



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