花屋敷の主人は蛍に恋をする
菊菜から花束を受け取った樹は嬉しそうにしながら、そう言って笑う。
やはりスーツを着込んで、花束を持つ彼の姿は惚れ惚れするほどにかっこいいものだった。樹には緑がよく似合う、と菊菜は改めて思った。
「それでは、私の番ですね。私があなたに選んだのは……こちらの薔薇です」
そう言って樹が隠していた場所から取り出したのは、中大輪で、鮮やかなオレンジ色の薔薇の花束だった。しかもかなり大きなブーケになっており、菊菜は驚いてその花を見つめた。
すると、手を出そうとしない菊菜を見て、樹は微笑みながら「大丈夫ですよ」と言って、菊菜の手を取りブーケを手に触れた。
手袋をしているとはいえど、大きな花束であれば手以外の肌に触れてしまうと思って、躊躇っていたが樹はそれをわかっていてあえてブーケに手を導いた。
「い、樹さん………!」
「大丈夫です。周りの花は私が作った造花。ですが、真ん中の数本だけ本物を入れました。香りがとてもいいので、あなたに感じてほしかったのです」
「私のためにこんなにたくさん造花を作ってくれたんですか?」
「もちろんですよ」
菊菜は恐る恐るはじの花に触れる。もちろん手袋を取ってだ。だが、薔薇は枯れる事なく綺麗なままで菊菜は思わず笑みがこぼれる。