花屋敷の主人は蛍に恋をする
「わぁ……!南国の果物みたいな甘い香りがする」
「そうなんです。とてもいい香りなんですよ。………そして、この薔薇の名前は『リクホタル』と言います」
「…………ホタル………」
樹は菊菜の事を蛍のようだと言ってくれた。その名前がついた薔薇の名前。確かに私にピッタリかもしれないと菊菜は微笑んだ。
「いつか素手でも花を触れるようになれるように、私も頑張ります」
「うん!期待してるね」
樹は今の大学の仕事をしつつ、医療メーカーと共に花枯病のための薬などを開発する手伝いをしていた。今考えているのは、花枯病の人が草花を触れるようなクリームを作る事だという。持続時間が長くないのが問題のようで、苦戦しているようだが、きっと彼なら成功すると菊菜は信じていた。
「完成したら、1番に使わせてね」
「もちろんですよ。だから、それまでは私で我慢していてください」
菊菜の手を取り、そう言って手を繋ぎ、菊菜を引き寄せると樹は花束と共に菊菜を抱きしめてキスをした。
梅雨も明け、初夏の太陽がガラス越しに2人を照らしている。
この屋敷でも向日葵を育てよう。
そんな話もしている。
少しずつ花達と向き合い、前を向いて行こうとしている。
2人なら大丈夫。菊菜はそう思い、彼と薔薇の香りに包まれながら微笑んだ。
おしまい