花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「わぁ……!南国の果物みたいな甘い香りがする」
 「そうなんです。とてもいい香りなんですよ。………そして、この薔薇の名前は『リクホタル』と言います」
 「…………ホタル………」


 樹は菊菜の事を蛍のようだと言ってくれた。その名前がついた薔薇の名前。確かに私にピッタリかもしれないと菊菜は微笑んだ。


 「いつか素手でも花を触れるようになれるように、私も頑張ります」
 「うん!期待してるね」


 樹は今の大学の仕事をしつつ、医療メーカーと共に花枯病のための薬などを開発する手伝いをしていた。今考えているのは、花枯病の人が草花を触れるようなクリームを作る事だという。持続時間が長くないのが問題のようで、苦戦しているようだが、きっと彼なら成功すると菊菜は信じていた。


 「完成したら、1番に使わせてね」
 「もちろんですよ。だから、それまでは私で我慢していてください」


 菊菜の手を取り、そう言って手を繋ぎ、菊菜を引き寄せると樹は花束と共に菊菜を抱きしめてキスをした。

 梅雨も明け、初夏の太陽がガラス越しに2人を照らしている。

 この屋敷でも向日葵を育てよう。
 そんな話もしている。
 少しずつ花達と向き合い、前を向いて行こうとしている。
 2人なら大丈夫。菊菜はそう思い、彼と薔薇の香りに包まれながら微笑んだ。



               おしまい

 


< 178 / 179 >

この作品をシェア

pagetop