花屋敷の主人は蛍に恋をする
『花泥棒が入れるように屋敷のドアを開けておけておき、入ってきたところを菊那さんに確認してもらって、前回と同じ少年であった場合は捕まえます』
「なるほど……」
『なので、前回の時間より少し早めにいらっしゃってくれませんか?』
「わかりました」
『ありがとうございます。おいしいお菓子を準備してますね。では、おやすみなさい』
「おやすみなさい」
そう言うとしばらくの間の後に、電話が切れた。
ここまでくれば断るつもりはわかったが、樹の提案にすぐに承諾してしまった自分に菊那はため息をついた。完璧に彼のペースに乗せられしまっているのだ。
「………明日、大丈夫かな」
何はともあれ、明日は花泥棒を捕まえる事になったのだ。少年とはいえ人を捕まえるなど、子どもの頃の鬼ごっこぶりだ。
話しをして返してくれるといいが、上手くいくとも限らない。相手は子どもなのだ。
「大切な物だから返して欲しい……そう、伝えればわかってくれるよね」
菊那はベッドにゴロンと横になった。
狭いワンルームの部屋で独り言で呟くが、それは静けさがあっという間に包んで消してしまう。
菊那はフーッと息を吐いて、目を閉じた。
花泥棒の顔を改めて思い出す。咄嗟の事だったが、彼の怒った表情は菊那の頭にしっかりと残っていた。大丈夫、しっかりと見分けられる。
そう思い、菊那は明日のために早めに寝てしまおうと思った。
そうしないと、樹の顔が浮かんで眠れなくなってしまいそうだった。