花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「それでは、茶色の花よりも綺麗なピンクや黄色と言った鮮やかな花がよろしいのでは?花束を差し上げますので、この屋敷のものを返してくれませんか?」
 「あの花以外のものはダメなんだ!俺は、あれがいいんだ………」
 「なるほど。では、あのチョコレートコスモスの花言葉をご存知ですか?」
 「花言葉?」
 「花には意味があります。プレゼントをするときはその意味をしっかりと調べておかないと、気持ちとは違う事を表してしまうのです。そう、あのチョコレートコスモスのように………。チョコレートコスモスの花言葉は『恋の終わり』。それでもよろしいのですか?」
 「…………終わりなんかじゃないっ!!終わるだなんて不吉な事言うなっ!」


 樹の言葉に過敏に反応した少年は大きな声を上げて反論した。
 その目にはうっすら涙が浮かんでいた。


 菊那はハッとして少年に駆け寄った。
 彼には盗んでまであの花が欲しい理由があったのだろう。だからこそ、こうやって花屋敷に入って探していたのだ。そして、「終わり」という言葉に激しく動揺していた。


 「………あのね、私たちはあなたをいじめたりするためにこうしたわけではなかったの。でも、驚かせてしまってごめんなさい。………私たちに話を聞かせてくれないかな?」
 「…………」


 少年の顔を覗き込み、菊那は出来るだけ優しい声でそう伝えた。
 すると、樹も2人に近づき、少年の頭に手を乗せて優しく撫でてあげた。


 「私も少し躍起になっていました。焦っていたようです。………ガゼボで美味しいお菓子を食べましょう」


 微笑みながらそう言うと、少年に手を差しのべた。すると、少し迷いながらも少年は自分の手で涙を拭った後、樹の手を取ったのだった。
 その顔はとても不安そうで、菊那はその理由がとても心配で仕方がなかった。
 小さい体で何を考え、思っていたのか。それを知りたいようで、少しだけ話を聞くのが怖くもあった。





 
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