花屋敷の主人は蛍に恋をする
6話「アシュラム」





   6話「アシュラム」




 ガゼボのソファに座った少年は高級そうなローファーの革靴を履いた脚をパタパタ動かして、美味しそうに焼き菓子を食べていた。
 ガゼボの下にはソファが2つしかなかったので、少年は菊那と一緒に隣り合わせに座った。始めは緊張していたようだったが樹が準備した甘いミルクティーを飲むと安心したのか、少しずつ表情が和らいでいったのだった。

 3月の下旬にしては本当に温かい日であり、ガゼボには天井のガラスによって柔らかくなった日差しが差し込んで、とても心地よい空間になっていた。前回同様ひんやりとした空気は感じたが、それでも寒いとは言えない、とても過ごしやすい気温だった。


 「そう言えば、あなたの名前は何て言うの?」
 「紋芽(あやめ)と言います」
 「………紋芽くんって呼ばせてね」


 少年の名前を聞いて、菊那と樹は驚いてしまった。あやめと聞くとどうしても菖蒲の花を想像してしまう。菊那はちらりと彼の方へと視線を向ける。花の名前を羨ましがっている樹の方だ。すると、彼と目が合い、樹は苦い顔をして微笑んでいた。


 「また花の名前ですね……何の因果でしょうか……」と、小さな声で呟いていた。やはり樹も紋芽という名前を聞いて花を思いついたのだろう。2人は少年から漢字を聞いたりしながらお互いに自己紹介をしながら少しの間世間話をした。

 そして紋芽がお菓子を全て食べ終えた頃、樹が口を開いた。



 「紋芽さん、お話を聞かせてくれませんか?」



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