花屋敷の主人は蛍に恋をする




 次の日は昨日の春のような気温が嘘だったかのようにとても寒い日だった。
 寒さが苦手な菊那はクリーニングに出そうと思っていた厚手のコートを引っ張りだして、タイツをしっかりと履いて対策をした。それでも、おしゃれには気を抜けないのが女と言うものだ。
 丈が長めのフレアスカートに、ショートコートを合わせ、足元はショートブーツにした。長い髪はハーフアップにして少しだけまとめることにした。お姉さんらしい雰囲気になればいいなと思いつつ考えたコーデに身を包み、菊那はまた花屋敷へと向かったのだった。



 外に出るとあまりの寒さに体が震えた。手袋を付けて、菊那は歩くことにした。
 もうすぐ花屋敷に到着するという時に、頬や鼻を寒さで真っ赤にした紋芽と偶然会った。
 紋芽はすぐに気づき、「菊那さん、こんにちは」と、小走りで駆け寄り小さくお辞儀をした。やはり礼儀正しい子だ。菊那と紋芽は並んで歩き、袋小路を歩く。すると、屋敷から2人が歩いてくるのがわかったのだろう。ブラウンのスーツにダークブラウンのチェスターコートを羽織り、手には菊那と同じように手袋をはめた樹が門の扉を開けて出迎えてくれた。
 その手にはとても薄いピンクのバラと、チョコレートコスモスの茶色の色合いが綺麗なブーケを手にしていた。


 「こんにちは。菊那さん、紋芽さん。寒い中、ご足労ありがとうございました」
 「こんにちは」
 「こんにちは、樹さん」


 紋芽は少し緊張した様子で彼に挨拶をしていた。菊那は心配ではあったもののに、その様子を笑顔で見守った。


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