花屋敷の主人は蛍に恋をする
彼が屋敷から出した車は誰でも知っている高級車だった。黒か白など落ち着いた定番色を想像していた菊那だったが、彼が乗っていたのは赤い車だった。その車の運転席から美男子が降りてくるのだ。車のCMか映画の撮影か何かだと思ってしまうほど、樹には似合っていた。
2人は後ろの席に乗り、革シートのひんやりとした感触とふわりとした乗り心地、そして樹の安全運転でドライブを楽しんだ。車の中で、紋芽は貰った花束と香水の瓶をとても大切そうに抱きしめていた。向かった先は、紋芽が教えてくれた病院。紋芽の母親が入院しているのは大型の総合病院だった。
「一人でお母さんのところまで行ける?」
「はい。いつも学校帰りに行ってるから大丈夫です。それに今日はお父さんも来るって行ってたので」
「そうなの。それはよかった。お母さん喜ぶといいね」
「はい」
そう返事をした後、紋芽は何か考え込んだ後、運転している樹と隣に座る菊那を交互に何回か見た後、とんでもない事を質問したのだ。
「樹さんと菊那さんは恋人同士なんですか?」
「えっ!?」
菊那は思わず声を上げてしまい、その後真っ赤になって声を失った。彼がどのような反応をしたのかが気になりもしたけれど、怖くて樹の方を見れないまま、不思議そうに樹の返事を待っている菊那を見つめた。