花屋敷の主人は蛍に恋をする



 どうやって紋芽と話していこう。
 彼の辛さを受け止めきれるか。そんな不安だけが先に出てしまい、どこか腫れ物に触れるようにビクビクとしてしまっていたのかもしれない。
 だからこそ、大人と同じように対応し、それでも子どもへの配慮も忘れない樹を心の底から「すごい」と感心していたのだ。
 本当は伝えるはずじゃなかったけれど、口を開いてしまえば、その事が言葉になって出てしまった。
 本人を目の前にして言うの恥ずかしかったけれど、ここまできてしまえば彼に伝えるしかない。菊那は樹の真っ黒な目をジッと見つめて、自分の思いを伝えた。
 すると、彼の瞳が少し揺れたのがわかった。そして目がすっと細くなり、彼が微笑んでくれた。


 「そこまで考えてくれたのですね。ありがとうございます。ですが、私は自分の目的を果たすために必死だけだったのですから……そんなに褒められた事ではないのですよ。花1輪、誰にも譲れない男なんですから」
 「譲れないものは、みんなあると思いますよ。もしない人がいるのならばら……私はある人の方が「大切」を持っている素敵な人なのだと思います」
 

 何でこんなにもムキになってしまったのか、自分でもわからなかった。
 もしかしたらば、樹の行いを本人だとしても悪く言って欲しくなかったのかもしれない。紋芽は樹と出会った事で、あんなにも嬉しそうな笑顔を見せたのだから。




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