花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「ここは紅茶の専門店なんです。時々こちらに来ていろいろな紅茶を飲むのが楽しみなのです。こちらのスコーンやケーキもおいしいので、菊那さんにも召し上がっていただきたいと思いまして……」
 「ありがとうございます。樹さんは紅茶がお好きなんですね。私は全くわからなくて……」 
 「はい。大好きなんです。………それでは、紅茶は私が選びますね。菊那さんは、ケーキは何がいいですか?」


 菊那がケーキを選ぶと、甘いものに合う紅茶を教えてくれたので、菊那はチーズケーキと樹が選んでくれた紅茶を注文した。 
 生クリームが添えられたチーズケーキは濃厚であり菊那はすぐに気に入ってしまった。そして紅茶を飲んだ瞬間、思わず「あっ」と声が出てしまった。
 すると、樹は嬉しそうに「気に入りましたか?」と言ってくれる。


 「その紅茶は少し渋めですが、甘いケーキなどにはよく合いますね。バラのような花の香りが楽しめるフレイバーなので、私も好きなんです。スリランカのディンブラという紅茶です」
 「ディンブラ……今度おうちでも買って飲んで見ます」
 「こちらの店にも茶葉は置いてると思いますので、買って帰りましょうか」
 「ぜひ!」


 あまりに美味しい組み合わせに興奮してしまい、紅茶の香りをかいだり、色を見たりしていると、目の前に座っている美男子はとても嬉しそうにその様子を見ていた。自分の選んだものを喜んで貰えて嬉しいのだろうか。けれど、嬉しいのは菊那の方だった。気になっている相手が選んでくれたものが自分もとても美味しく感じたのだ。ただ選んでくれただけでも嬉しいというのに。


< 42 / 179 >

この作品をシェア

pagetop