花屋敷の主人は蛍に恋をする
「菊那さん………?」
「………あ……」
「大丈夫ですか?難しい顔をして花を見ていましたが……」
花を見て癒されるつもりが深く考え込んでしまったようだ。紅茶が入ったポットとティーカップが乗ったトレイを持った樹が、いつの間にか庭に戻ってきており、菊那の傍で心配そうに立っていたのだ。
「あ、ご、ごめんなさい。ぼーっとしてしまって。……お花が綺麗だったので見惚れてしまったみたいで」
「そうですか。お茶が入りましたので、座りましょう」
「はい」
咄嗟に誤魔化したものの、考え事をしていたのは明らかだったはずだ。それでも樹は何も言わずに微笑み、ゆっくりと先を歩いてくれる。
そんな彼にならば話してもいいだろうか。菊那はそう思ってしまう。
「菊那さんがお好きではないかと思って淹れました。お口に合うといいのですが」
「ありがとうございます。いただきます」
向かい合うようにソファに座り、中央に置かれたティーカップに手を伸ばした。色は普通の紅茶のようだ。ゆっくりと湯気が出ており、少しだけ甘い香りもした。
どんな味がするのだろうか。
そんな期待を持ちながら、一口飲んでみる。すると、甘味を感じた後にピリッとした小さな刺激を舌で感じたのだ。それが何か、菊那はすぐにわかった。