花屋敷の主人は蛍に恋をする
「生姜……ですか?」
「そうです。少しレモンを入れた、ハニージンジャーティーです。今日は寒いですし、ちょうどいいかと思いまして。チャイのような香辛料が好きなのでしたら、ジンジャーも気に入るかと思いまして」
「はい。とってもおいしいです!すぐにでも飲み干してしまいそうなぐらいに」
「そうですか。おかわりは沢山あるので、召し上がってください」
樹のその言葉に甘え、菊那はゴクゴクと温かいハニージンジャーを飲み続けた。あっという間にティーカップは空になる。けれど、紅茶のおかげなのか、菊那の体はポカポカと温まり、ホッと体の力が抜けたような気がした。
すると、思い出したくも、口にしたくもないと思っていた事を彼に話してみたい。不思議とそんな風に思えたのだ。
ここに来た本当の目的を話せば、樹もわかってくれる。そして、ちゃんと謝罪をしよう。自分から訳を話せずに黙っていたことを。
そう、心に決めて菊那は重い口を開けたのだ。
「樹さん……その決して楽しい話ではないのですが………私の話を聞いていただけますか?」
「えぇ………もちろんです。お話ししたように、私はあなたの事が気になっているのですから。菊那さんの話を聞きたいのですよ」
「………ありがとうございます」
そんな優しい言葉に菊那は笑みがこぼれた。
樹が「気になっている」のは菊那がここに訪れた理由なのだとわかっている。
彼が冗談を言って楽に話せるように配慮してくれたのだとわかっている。
けれど、その気持ちが菊那にとって、嬉しいのだ。
大丈夫。最後まで話せる。
菊那はそう思えた。
「私が小さい頃の話です。………クラスの人達からいじめを受けていたんです」
惨めで悲しくて苦しかった過去の記憶。
けれど、もう逃げたくない。その思いから、菊那は話を続けたのだった。