花屋敷の主人は蛍に恋をする



 「…………」
 「どうしましたか?まさか、本当に泥棒なのでしょうか?」
 「えっ!?泥棒……?そんな、まさか!?」


 あまりの美形に見惚れてしまった菊那に、男は聞きやすい透き通った声で話しかけてくる。この男は声さえも美しいなんて、神様は贔屓しすぎではないか、そんな風にさえ思ってしまう。
 けれど、先ほどからそんな美男子から物騒な言葉が紡がれている。しかも、その「泥棒」という言葉はどうも菊那に向けられているようなのだ。菊那は慌ててそれを否定した。

 すると、「わかっています」と苦笑しながらその男は胸のポケットチーフを取りだし、菊那の頬にそれを当てた。ふんわりと柔らかく、どこか花の香りがした。


 「泥がついています………ここで何がありましたか?」
 「あ、ありがとうございます。ここで男の子とぶつかってしまって……」
 「なるほど。その男の子は何か持っていませんでしたか?」


 その男に問われて、菊那はハッとした。少年が大切そうに持っていたもの。それは一輪の花だった事を。


 「持っていました。とても大切そうに………。茶色の一輪の花を」
 「探しているのはそれです。チョコレートコスモス」
 「チョコレートコスモス?」
 「はい。キク科の花で、茶色に似た赤色や赤紫色などの花を咲かせます。種類もチョコレートのような名前がついており、キャラメル・チョコレートやショコラ、ストロベリーチョコレートという名前の品種があります」



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