花屋敷の主人は蛍に恋をする
仲良しの佳菜はこちらを見る事も一言も言葉を発する事なく視線を合わせてもくれなかった。
完璧に無視をされてしまった。
彼女が座っていた椅子の前に立ち、ポーチを差し出したのに、プイッと顔を背けられたのだ。菊那は何が起こったのかわからなかったが、鼓動が強く早くなるのがわかった。
「ねぇ、佳菜ちゃん。どうしたの?何かあった……?」
「………かけないで」
「え………?」
「話しかけないで。こんなのいらないっ!」
「………あっ………」
ずっと仲が良かった友達である佳菜の顔がひきつり、そして鋭い目の中に動揺が見られ、菊那はドキッとした。佳菜は何かに怯えているのではないか。そんな風に感じられたのた。菊那が彼女に差し出していた布のポーチは、佳菜の手によって弾かれて、近くの床に落ちた。「KANA」と刺繍でかかれた文字と猫がワンポイントになった、菊那のお気に入りのものだった。佳菜に喜んでもらえればと、宿題が終わった後に夜遅くまで作っていたものだ。きっと佳菜は喜んでくれる。そんな風に疑うこととなく思っていた。
それなのに現実はどうだろう。
友達には睨み付けられ、一生懸命作ったら刺繍のポーチは床に置かれている。
その状況を受け入れられなくて、菊那はただ呆然と落ちたポーチを見つめていた。
けれど、そのポーチを誰かが拾った。