花屋敷の主人は蛍に恋をする



 日葵の言葉は、菊那の心をぐらりと動かした。自分もこうやって強くありたい、そう強く思った。同じ事を思っていても口に出したり他の人に伝える事が出来なかった菊那にとって、日葵の態度はとてもかっこいいもので、憧れる存在となった。

 菊那は呆然と日葵を見ていると、ハッとして恥ずかしそうに頭をかきながら日葵は「俺を探してれたんでしょ?何か用事でもあった?」と聞いてくれた。


 「あの……これ約束していたポーチなんだけど。遅くなってごめんね」
 「え……ありがとう!実は楽しみにしてたんだよね……って、これもしかして作り直したの?刺繍が全部違ってる……」


 菊那が渡したポーチには佳菜のものとは違う刺繍がされていた。向日葵の花と、ヒナタの文字が施されていたのだ。


 「うん……新しいのが作りたくて。日葵って向日葵からきたのかなーってずっと思ってたし。それに、最近はここで絵を描いてるみたいだから」


 菊那は日葵が向日葵の前で座り込んで絵を描くのに夢中になっているのを、何度か見かけていた。
 ひまわりが好きなのか、それとも名前だからなのかはわからない。けれど、彼の茶色の髪も日に焼けた肌の色も、そして満面の笑みも、彼自身が向日葵に似ているなと思っていた。だから、ポーチに描くものをすぐに向日葵に決まった。

 日葵はもっていた鉛筆を置いて、菊那のポーチを受け取り、そっと向日葵のポーチに触れた。



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