花屋敷の主人は蛍に恋をする
「俺、向日葵好きなんだ。母さんがつけた俺の名前も向日葵からとったものだから好きってのもあるけど、なんか見てると元気でるから。………だから、これすごく嬉しいよ」
「………よ、よかった。喜んでもらえて」
「やっぱり可愛いよなー。なんで、この刺繍の可愛さがわかんないか。俺には不思議だよ」
そう言って目の前でニッコリ笑う日葵の笑顔が眩しくて、菊那は顔が少し赤くなってしまった。それを隠すように顔を背けると、日葵がクスクスと笑った。
「本当にありがとう。大切に使うよ」
「うん。こちらこそ、本当にありがとう………あ、あの……」
「あ、もう少しでチャイム鳴るな。一緒にクラスに返ったら何か言われるから先に戻ってる。めんどくさいけどな………じゃあ、またな」
そう言って、日葵はスケッチブックなどを片付けると駆け出してしまった。
菊那は「また普通に話そう」と伝えたかった。いじめている人など、気にしなくていいから、と。けれど、それを伝える事が出来なかった。
「…………次は、クラスで話しかければいいか」
菊那は裏庭でひっそりと、けれど堂々と太陽のように咲いている向日葵を見つめながらそう呟いた。