花屋敷の主人は蛍に恋をする
けれど、菊那はその日から日葵に会うことが出来なくなった。
日葵が学校に来なくなったからだ。
心配になった菊那は、担任の先生に住所を聞き、日葵の家を何度も訪れたがいつも留守になっていた。日葵との連絡がつかず、菊那が心配していたある日。学校から帰宅すると菊那宛に手紙が届いていたのだ。日葵からの物だ。
『仲良くしてくれてありがとう。いつまでもお元気で。ポーチは宝物だよ』と、書かれた手紙と彼が書いた向日葵の絵が同封されていた。
菊那はその手紙を見た瞬間に家を飛び出した。何か嫌な予感がしたのだ。
残暑が厳しい夏の夕暮れ時。菊那は必死になって走り、日葵の家へと向かった。彼の家に着く頃には滝のような汗が流れていた。
けれど、そんな事はどうでもよかった。
日葵の家には喪服姿の人が出入りしており、家の前には葬式の案内の看板が立てられていた。「河合家」と書かれたその場所は河合日葵の家に間違えなかった。
菊那はヘナヘナとその場に座り込んでしまいそうなほどショックを受けたが、何とか振り返り歩いてきた道をゆっくりと戻った。
日葵はやはり気に病んでいたのだろうか。笑顔を見て安心してしまった。彼の発言を強がりではなく本当の気持ちだと思ってしまった。
自分より彼は傷ついていたのに気づけなかった。守れなかった。
どうして………?
何で目の前からいなくなってしまった?
菊那は涙が出る事はなかった。
本当に悲しいときは泣けないのだろうか。こんなに苦しくて辛いのに涙は出てくれない。
向日葵のような笑顔の彼は、菊那の前から突然居なくなってしまったのだった。