花屋敷の主人は蛍に恋をする
12話「ハッピーチャイルド」
12話「ハッピーチャイルド」
☆☆☆
日葵の事を人に話したいと思ったことなどなかった。自分が大切にしていればいい、そう思っていた。
けれど、花屋敷の噂話を聞いた時に、もしかしたら……そう希望が見えた気がしたのだ。
菊那がそこまで話し終わると、小さく息を吐いた。ずっと強く手を握りしめていたのだろうか。両手がジンジンと痺れていた。
「菊那さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい………すみません。当時の事を思い出しながら話していたら、ぼーっとしてしまって。上手く話せていたでしょうか?」
「えぇ。教えてくださり、ありがとうございます。……大変な思いをされていたのが伝わってきました」
「………すみません。こんな話をしてしまって」
「私から聞いたのですから。菊那さんに辛い事を思い出させてしまって、申し訳ないです。………日葵さんは素敵な方ですね………」
そう言うと、樹は何か考え込んでいるのか一点を見つめていた。
菊那は不思議そうにしながらも彼の反応を待っていると、「すみません。考え事をしてしまいました」とやっと返事を返した樹を、呆然としていても絵になるな……と思って見つめてい菊那はハッとして首を横に振った。
「菊那さん……あなたはこの花屋敷の来て何をしたかったのですか?花屋敷の噂をきいて来たのでしょうが……まさか、亡くなった人と会いたいとでも………?」
「い、いえ……!樹さんが魔法使いとか時空を操れるのか……そういうのは噂に過ぎないと思っているので………」
確かに気持ちが沈んでいる時は、魔法使いがいれば彼に会わせてくれるのだろうか?と、考える事もあったかもしれない。けれど、それも内心では「ありえない」とわかっている。だが、菊那が樹の屋敷を訪れたのには理由があった。