花屋敷の主人は蛍に恋をする
「私を魔法使いだとは思っていないのですね」
「映画に出てくるミステリアスな魔法使いにはピッタリだと思いますけど」
「それは安心しました。噂が誤解だとわかっていただけたようで」
そう言って樹は微笑んだ彼を見ていると、この四季の花が咲く庭は、魔法ではないかと思ってしまうほど謎だらけだと、菊那はこの時に言えるはずがなかった。
「樹さんに見てもらいたいものがあるんです」
菊那はそう言うと、自分のバックから小さなポーチを取り出し、その中からハンカチで包んだ小さな小瓶を手に取った。
そして、その瓶の中に入っていたものをハンカチの上に取り出して樹の方へと差し出した。
「これは………向日葵の種ですね」
菊那が大切に持ち歩いているもの。それは向日葵の種、1つだった。
菊那は目を細めてそれを見つめる。
たった1つになってしまった向日葵の種。自分の不甲斐なさで胸が締め付けられる。
「日葵から届いた手紙の中には絵の他にこの向日葵の種が届きました。何個か入っていたので、彼を忘れないためにも実家の庭にまいたり、一人暮らしを初めてからもプランターに植えたりしていました。ですが……1回も向日葵の花が咲かないんです。……それどころか芽が出なくて。毎年1つずつチャレンジしてみて、しっかり調べて土や植える時期も変えてみました。けれど、それで芽は出てくれませんでした」