花屋敷の主人は蛍に恋をする
菊那は今まで一人で試してきた事を思い出して、我慢できずに涙が溢れてきた。
毎日芽が出ているかとプランターを見ては泣きそうになる時間。夏が終わると「あぁ、今年も種を1つダメにしてしまった」と、情けない気持ちになるのだ。そして、日葵に申し訳ない気持ちになる。
「そして、今年が最後の種になってしまいました。これの種が花を咲かせなければ、彼がくれた向日葵を咲かせなれなくなってしまうんです。日葵くんの向日葵がなくなってしまう………それがとても怖くて……でも種だけ持っていても日葵くんは喜んでくれない、きっと花を咲かせて欲しい。そう願っているのではないかと思うと……。でもこの種を植えて花が咲かなかったら、彼の種さえも失ってしまう。それがとても怖いんです」
菊那が目をこすって涙を拭こうとすると、樹が、ハンカチを取り出し菊那の目にそれを当ててくれる。彼のハンカチからウッド系の香りが感じられ、それだけで菊那は少しホッとしてしまうから不思議だ。樹らしい香りだからかもしれない。
「落ち着いてからでいいです。……菊那さんがして欲しい事とは何か。私に教えていただけませんか?」
「……大丈夫です。お話させてください」
菊那はフーッと息を小さく吐き、ぎこちない笑みを浮かべて樹を見た。きっと泣いて顔はぐちゃぐちゃになってしまっている事だろう。けれど、暗い話をしてしまい、彼の目の前で泣いてしまったのだ。これ以上心配をかけたくない。その思いで微笑んだが、それを見た樹は何故か悲しそうな顔をした。
「………無理して笑う必要はありません。泣きたいときは泣いて、辛かったといってください。私はその方が嬉しいです」
「………ありがとう、ございます」
菊那はドキッと胸が強く鳴った。彼の笑みがとても綺麗だったのもだが、樹の言葉が嬉しかったのだ。彼の前で弱い姿を見せてもいい。その方がいいと言ってくれたのだ。
どうして、そんな事を言ってくれるのですか?と、問いかけたかったけれど、今はその話しよりも彼に伝えなければいけない事がある。
菊那は、高まる鼓動を抑えつつ、口を開いた。