花屋敷の主人は蛍に恋をする
「おはようございます、菊那さん。今日はいいお天気ですね。すっかり春になりました」
待ち合わせの時間より早めにマンションの玄関に向かうと、すでに菊那は車を停めて待っていてくれた。
この日は英国の雰囲気が感じられるチェック柄のスーツだった。だが、そのチェックもとても落ち着いているグレーのスーツで、樹はとても上品に着こなしていた。スーツのモデルをしたら、きっとその商品は売れに売れるのではないか。そんな風に思えるほどだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
高級車の助手席に乗り、そう挨拶をするとゆっくりと車がゆっくりと動き出す。
「昨日は驚きましたよね。突然あんなお誘いをしてしまって」
「え、えぇ………まぁ、驚きました」
「でも、菊那さんが了承してくださって良かったです」
「………まだ、教えてくれないのですか?」
「えぇ………秘密です」
真っ直ぐ前を向いて運転する彼の横顔を盗み見ると、とてもニコニコしていた。
全くもって楽しそうだ。
菊那はそんな表情をみると、クスッと笑ってしまう。きっと、樹がこんなにも楽しそうなのだから良いことなのだろう。そう思えて、緊張していた体が少しだけ軽くなった気がした。
が、それも束の間の事だった。
菊那はある事に気づいたのだ。