花屋敷の主人は蛍に恋をする
話が途中で途切れてしまった、菊那の仕事についての事を樹はもう1度聞いてきてくれた。裁縫の仕事をしていないのが、どうも気になっているようだった。
過去の菊那の話を聞いて、いじめで裁縫が嫌いになってはいないかと心配してくれているようで、菊那は微笑みを返した。やはり、彼は本当に優しい。
「………まだ、裁縫は嫌いになんてなれませんし、好きですよ。それに、カフェで時間を短くにして働いているのは、裁縫のためなんです」
「そうなのですか?」
「はい。実は自分で作った刺繍入りのポーチやハンカチ、バックなどをネットで販売しているんです。少しずつ買ってくれる人も増えてきたので……このままハンドメイドで暮らしていけたらなーって考えているんです。本当にまだまだで夢、なんですけれど………」
菊那は少しずつではあるが、好きを仕事にしてきた。カフェの仕事も好きではあった。コーヒーの香りにゆったりとした時間。お客さんのホッとした表情。お花が好きな店主がお店のいたるところに花を飾っているのも菊那にとってはお気に入りだった。けれど、その花達を見ていると、どうしても「このお花可愛いな。刺繍してみたいな」「このブーケだったらポーチの布に映えそう」など考えてしまうのだ。どうしても、裁縫が刺繍が好きなのだ。そう思って、菊那は目を細くして微笑む。
すると、隣りで話を聞いてくれていた樹も同じように穏やかに笑みを浮かべながら「そうでしたか」と言ってくれた。
「今、菊那さんが作ったものはお持ちですか?ぜひ拝見したいのですが」
「あ、ミニポーチなら………」
菊那は手荷物から薬などを入れる小ぶりのポーチを取りだし、「古いものなので恥ずかしいですが」と、樹に手渡した。