花屋敷の主人は蛍に恋をする
楽しそうに話をする菊那を見て、つられて笑顔になってしまう。
彼はきっとこの向日葵畑に来て、最後の1つになってしまった日葵の種を調べてもらおうとしているのだろうと菊那にもわかった。どんな品種なのか、どんな育て方をすればいいのかを。少し聞いただけでもかなりの数の向日葵の種類があるとわかったのだ。普通の向日葵ではないのかもしれない。
樹自身も植物学の教授だが、向日葵のプロ聞いた方がより詳しい話が聞けると思ったのだろうか。
樹が信頼している人ならば、尚更期待できるのではないか。菊那は思った。
そんな時だった。
「そんなに詳しく話されてしまうの僕が話す事がなくなってしまいますよ、史陀さん」
土を踏む、ゆったりとし足音と共に明るい声が菊那の後方から聞こえた。樹の知り合いという事は、ここの向日葵畑の関係者なのだろう。樹も声のした方に視線を向けて小さく会釈をしている。菊那は、後ろを向き挨拶をしようとその男性を見た。
「お邪魔しています。私は……………え…………」
けれど、その挨拶は途中で止まってしまった。菊那の視線はその男性に釘付けになり、瞳は揺れ、体は小さく震え始めた。ドクンドクンッと、心臓の音も大きくなって耳から入ってくる音は心音だけのようにさえ感じてしまう。