花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「………嘘………どうして………」
 「ごめん。ビックリさせたみたい、だね」


 眉を下げで謝るその男性。
 茶色の髪と焼けた肌は変わらない。いや、もしかしたら今の方が黒くなっているかもしれない。動揺する菊那を安心させようと、微笑んで近づいてくる彼の表情は、とても優しくて眩しい。太陽のような彼。



 「…………日葵くん……なの?」
 「うん。………久しぶり、菊那。いや、菊那さんって呼んだ方がいいかな。遠いところまで来てくれてありがとう。」


 
 菊那の目の前に居たのは、笑顔が変わらない日葵だった。
 本当に彼なのだろうか。確認していたかったけれど、次第に視界がボヤけ始めてきた。そこで始めて自分が涙を流していると気づいた菊那は、手で涙を拭おうとしたけれど次々に涙がこぼれ落ちてきて追いつかなくなってしまう。

 
 「大丈夫だよ。…………心配させてしまったみたいで、本当にごめん」


 日葵の声が近くなり、菊那はゆっくりと顔を上げ、涙を拭きながら日葵を見た。すると、菊那の顔を見てゆっくりと頷いた。
 まるで「本物だよ」と言っているようだった。

 そんな日葵の姿や言葉、表情を見て我慢など出来るはずもなかった。
 その後は子どものように声を上げて泣き続けてしまったのだった。

 そんな菊那を慰めるように、日葵は頭を撫で、樹はいつまでも隣に居てくれた。
 樹の顔など見なくても、彼は穏やかな表情で見守っていてくれているのを、菊那は感じられたのだった。





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