花屋敷の主人は蛍に恋をする
向日葵は太陽の方を向いて咲くと言われているが、そのせいなのか日向の香りがするな、と菊那は思った。
菊那が2人に見守られながら、少しずつ落ち着きを取り戻していった。ハンカチで涙を拭き、菊那はゆっくりと呼吸を繰り返した。泣きはらしてしまい目は腫れているし、化粧は落ちてしまい、酷い顔になっているはずだ。けれど、彼らはそんな事をバカにするような人ではないとわかっている。菊那はゆっくりと顔を上げながら、「………すみませんでした。気が動転してしまって……泣いてしまって」と、樹と日葵に謝罪した。
すると、日葵はジーッと菊那を見つめた後、「……変わってないね」と、笑ったのだ。口を大きく開けて笑う豪快さ。日葵の方が変わっていないと菊那は思った。
日葵が死んだと勘違いしてしまった事。いじめられていた時に助けてあげられなかった。そんな後ろめたさから、菊那は何から言葉にしていいのかわからずに、口を開けたり閉めたりを数回繰り返し、申し訳なさそうに彼を見ることしか出来ずにいた。すると、隣に居た樹がゆったりとした口調で「ゆっくりでいいんですよ」と言い、ポンッと肩に手を添えてくれる。
「彼に聞きたいこと、話したいことがあるのでしょう?時間はたっぷりありますので、ゆっくり話してはいかがですか?」
「そうだよ。まずは僕の家へどうぞ。美味しいアイスティーを準備してました。もちろん、お菓子も、ね」
日葵は前を歩き、車内から見えたログハウスまで案内してくれた。
部屋の中に入ると、とても天井が高い部屋があった。大きな木で作られている壁が続いており、中央は吹き抜けになっていた。2階も見えるがそこまで部屋数は多くないけれど、とても開放的な空間で、草木の香りを薫る、そんな家だった。
そして何より印象的だったのは沢山の向日葵が飾ってあるのだ。向日葵畑をしている住人の家だからかもしれないが、沢山の向日葵が見られた。そして、本物の花だけではなかった。色々な形で向日葵が描かれた絵が飾れていた。油絵や水彩がなど様々だったが、色鮮やかな油絵が多かった。向日葵だけアップもあるが、夕焼けの向日葵畑、窓辺に飾られた一輪の向日葵や水辺に花びらを散らしながら流れる向日葵など、沢山のものがあった。