花屋敷の主人は蛍に恋をする
樹から向日葵の種を受け取った日葵は、大切に手に持ち、そして少しの力を込めて殻を割った。
パキッと鈍い音と共にあっけなく向日葵の種が割れてしまう。
菊那はじっと彼の手の中を見つめる。菊那の方に日葵の手が伸びてくる。
「………中身、からっぽ…………」
菊那はそう言うと、体の力がスッと抜けていくのを感じた。
殻の種を大切に持ち、何年も何年も芽が出ることを願い続け、そして絶望していた。1つなくなり、また1つ………と、夏が終わるのを怖れていた。
それなのに、種の中にはなにも入っていなかった。
それなのに、土に埋めて水をやり、太陽の光を浴びせながら、願い続けていた。そんな昔の自分を思い出しは、滑稽に思えた。
けれど、それと同時に安心もした。
自分の育て方が悪かったわけでも、種に気持ちが伝わってないわけでもなかったのだ。
ぐじゃぐじゃとした感情が、菊那を襲った。けれど、2人の前では冷静にいなくてはいけない。
菊那は笑顔を浮かべて、日葵を見た。