花屋敷の主人は蛍に恋をする
「からっぽの種を植えてずっと花が咲くのを待っていたなんて………。私、バカだな………。怖がらずに割ればよかったのにね。そうすれば、日葵くんにも樹さんにも迷惑をかけてしまって………」
「バカでも、迷惑かけてもいないよ」
「………え………」
「そうですね。それは同意です」
「菊那は何も悪くないさ。だから…………」
「悪いよ………。日葵くんは私の事を助けてくれたのに、私は何も出来なかった。助けてあげたかった………っっ!」
「菊那………」
小さかった声が、話をする事に感情的になり、大きくなっていく。最後は悲痛な叫び声に近かったかもしれない。
「日葵くんは私のために、自分から私を遠ざけようとしていた。だから、私はあなたの所に行けなかった………そんな事が理由じゃない。…………私、またみんなにバカにされたり無視されるのが怖かった。…………日葵くんの所に行きたかったのに、行かなきゃ行けなかったのに…………本当にごめんなさい………。助けられなくて、ごめんね」
先ほどあんなにも泣いてしまったのに、涙は渇れていなかった。
しっかり謝りたい、だから泣くのは嫌なはずなのに、菊那の瞳からは一筋の涙が流れた。
それでも、彼の目を伝えようとまっすぐ前を向いて、謝罪の言葉を繰り返した。
優しい日葵ならば、「謝らないで」と言うかと思った。
けれど、菊那の真っ直ぐな気持ちが伝わったのか、日葵のいつもの笑みは顔から消え、真剣な眼差しで菊那の目を見返し、彼は「うん。許すよ」と言った。
どうして、自分の周りにはこんなにも優しい人ばかりなのだろうか。
日葵は向日葵そのものだな、と菊那は強く思った。