花屋敷の主人は蛍に恋をする
18話「ルミエール」
18話「ルミエール」
「それにしても、あんなにたくさん向日葵が咲いてたのに、菊那にあげたのだけ種が殻だったなんて……ある意味ですごいよな」
菊那と樹がそろそろ日葵の家を去る事になり、日葵が見送りに外へ出た時だった。日葵が、そんな事をポロリと口にした。
昔の記憶だけれど、確かに裏庭には何個かの向日葵が咲いていたように思えた。
それなのに、菊那が貰ったものは全て空っぽだったのだ。確かに偶然にしては、意地悪にも感じる。
「最後の挨拶出来なかったから、俺の事覚えていて欲しくて自分の名前の向日葵の種を渡したのにな……」
と、日葵はそう寂しそうに呟き苦笑した。
すると、菊那と隣にいた樹がゆっくりと言葉を紡いだ。
「その向日葵の種がここに導いてくれたのではないですか」
「………空っぽの種が………」
「……あぁ。その考え方いいですね。うん、そんな気がしてきたっ!」
樹の一言で、日葵の顔には笑顔が戻った。
菊那は、彼の機転の効いた言葉。いや、思いやりのある優しい考えに、「あぁ、樹さんらしいな」と、心が揺れた。